このページの要旨

多くの活動家、研究者、政治指導者は、「東アジアにおける和解を実現するには日本は明確な謝罪を行い、戦争の犠牲者への賠償金を支払うべきだ」と主張している。
彼らは、西ドイツが1960年代半ばから開始した「過去との折り合いをつける」モデルを日本が採用することを促している。
1950年代にコンラート・アデナウアー首相がとった路線(アデナウアー・モデル)のほうが、日本にとってはより適しているかもしれない。

20世紀初頭、日本は朝鮮半島を併合し、満州を植民地化して略奪し、現地の人々を抑圧し、ときに軍に徴用することもあった。
当時の日本の政策の多くは非常に乱暴だった。
悪名高い関東軍の731部隊は、中国人の捕虜や民間人を対象に(化学兵器開発のために)いまわしい人体実験を行っている。
敗戦後に、日独の辿った道の違いは、政治的民度の違いもあるが、何よりも大きな違いは政治家のレベルの違いである。
ジェニファー・リンドは、このアデナウアー・モデルを日本に推奨している。
このアデナウアー・モデルは次のふたつを同時に実行する。
(1)まず、ナチス・ドイツが犯した残虐行為を正直に認める。
(2)戦後に西ドイツが達成した成果を強調し、将来に焦点を合わせる未来志向の路線を取る。

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1 アデナウアー・モデル

国際法上の戦争終結は、日本国とのサンフランシスコ講和条約が発効した1952年4月28日である。
これが国際法上の正式の日付なのだが、日本では天皇の玉音放送があった1945年8月15日をもって「終戦記念日」としている。

毎年、この頃になると、犬HKが先の太平洋戦争を振り返ったドキュメントを放送する。

今年はネットでも犬HKのドキュメントへの話題が沸騰していて、好意的なものが多かった。

見逃した方のために、3つの番組を、それぞれユーチューブから紹介しておく。
わたしはこの3つの動画を見て、日本人はやはり戦争をしてはならない民族なのだと思った。

(1)NHKスペシャル「731部隊の真実~エリート軍人と人体実験~」 2017年8月13日

(2)NHKスペシャル「樺太地上戦 終戦後7日間の悲劇」 2017年8月14日

(3)NHKスペシャル「全記録 インパール作戦」 2017年8月15日

日本が戦争をしてはならない国だというのは、日本民族には、敵ばかりか同胞に対しても、人命を軽視する民族的な体質が強くあるからである。それがこの3本のドキュメントには強く表れている。

今日は、ジェニファー・リンドの論文を手がかりに、太平洋戦争の謝り方について考えて見る。
そしてそういった問題意識自体がまだ有効なのか、ということまで踏み込んでみたい。

ジェニファー・リンドは「日本の歴史認識と東アジアの和解を考える ―― 反動を誘発する謝罪路線の危うさ」のなかで書いている。

(ジェニファー・リンドは、ダートマス・カレッジ助教授である。
引用論文は、2008年に出版されたSorry State: Apologies in International Politics『謝罪する国々、国際政治における謝罪』(コーネル大学プレス)からの抜粋である)

多くの活動家、研究者、政治指導者は、「東アジアにおける和解を実現するには日本は明確な謝罪を行い、戦争の犠牲者への賠償金を支払うべきだ」と主張している。
彼らは、西ドイツが1960年代半ばから開始した「過去との折り合いをつける」モデルを日本が採用することを促している。

この時期の西ドイツはナチスの残虐行為の犠牲者を追悼する博物館や記念館を建て、教科書で自国の暗い過去を紹介して子供たちに歴史を教え、指導者たちも犠牲者の遺族に誠実に、細部にまで踏み込んで繰り返し謝罪した。

だが、もう一つのドイツモデルがある。
1950年代にコンラート・アデナウアー首相がとった路線(アデナウアー・モデル)のほうが、日本にとってはより適しているかもしれない。

アデナウアー政権下の西ドイツは、ナチス・ドイツが犯した残虐行為を認めつつも、戦後に西ドイツが達成した成果を強調した。
西ドイツとフランスが劇的な和解を遂げたのは、このアデナウアー・モデルを通じてだった。

たしかに、1960年代半ば以降の謝罪・賠償モデルのほうが多くの好ましい要素を持っている。
過去の問題行動を謝罪すれば、犠牲者の遺族の痛みを和らげ、近隣国に強い印象を与え、安心させることができる。

だが日本その他の国のケースをみると、対外的に謝罪をしても、国内で(それを否定するような)ナショナリズムの反動が起きるために、(和解を果たすという目的からみれば)謝罪は逆効果だ。

したがって、日本、あるいは日本と同じ立場にあるその他の国は、むしろ、「謝罪」と(過去の歴史を正当化し)「謝罪を否定する反動」の間の中道路線、つまり、アデナウアー・モデルをとるべきだろう。

<変化する戦争の記憶>

日本軍による侵略と残虐行為を東アジアの人々はいまも鮮明に覚えている。

20世紀初頭、日本は朝鮮半島を併合し、満州を植民地化して略奪し、現地の人々を抑圧し、ときに軍に徴用することもあった。
当時の日本の政策の多くは非常に乱暴だった。
日本軍兵士の性欲のはけ口として、日本に支配されていた地域の少女や女性たちがだまされて雇われるか、誘拐された。
こうした女性たちは、婉曲表現で慰安婦と呼ばれている。

日本軍はアジア戦域において捕虜を飢えさせ、不当に扱っただけでなく、国内に連行して軍需工場で奴隷のように働かせた。
悪名高い関東軍の731部隊は、中国人の捕虜や民間人を対象に(化学兵器開発のために)いまわしい人体実験を行っている。

さらに、朝鮮半島や中国での抗日勢力に対する軍事作戦は壮絶の一言だった。
「全てを殺して焼き払い、略奪する」という日本軍の戦略はいまも鮮烈に記憶されている。(『Foreign Affairs Report』2009 NO.5)

 

2 政治リーダーが変えた日独戦後の歩み

最初に説明したように、この論文は、2008年に出版された『謝罪する国々、国際政治における謝罪』(コーネル大学プレス)からの抜粋である。
今から9年ほど前の論文だが、日本を取り巻く状況で、この9年間で変わらなかったことと、変わったこととがある。
それを考えるうえでも貴重だと思って採り上げた。

それに『Foreign Affairs Report』で「731部隊」の名詞が出てくる論文(それも1か所だけ)は、わたしの知るかぎりこの論文だけである。
それは米国の知識人にとっても、731部隊は採り上げにくいのであろう。
なぜなら米国自身が、日本の敗戦後に、人体実験のデータ提供と交換に戦犯免責をしたからであろう。
731部隊は米日共犯の要素が色濃い。

敗戦後に、日独の辿った道の違いは、政治的民度の違いもあるが、何よりも大きな違いは政治家のレベルの違いである。
日本の政治指導者は、日本軍の「残虐行為の犠牲者を追悼する博物館や記念館を建て、教科書で自国の暗い過去を紹介して子供たちに歴史を教え、指導者たちも犠牲者の遺族に誠実に、細部にまで踏み込んで繰り返し謝罪」することをしなかった。

総括をしないという日本の政治文化は、現在の選挙にも顕れている。
与野党ともにやらないし、なかなか選挙で惨敗してもトップが責任をとらない。
それが敗戦後も如実に顕れている。

残虐行為の犠牲者を追悼する博物館や記念館など、日本が建てるなどおよそ想像もできない。
逆に、日本軍国主義の最大の被害者だった中韓両国で作られ、それに日本政府は抗議するありさまだ。

ドイツには1950年代にコンラート・アデナウアーがとった路線がある。
ジェニファー・リンドは、このアデナウアー・モデルを日本に推奨している。

このアデナウアー・モデルは次のふたつを同時に実行する。

(1)まず、ナチス・ドイツが犯した残虐行為を正直に認める。

(2)戦後に西ドイツが達成した成果を強調し、将来に焦点を合わせる未来志向の路線を取る。

ジェニファー・リンドがアデナウアー・モデルを日本に推奨する理由は、(2)にある。
とくに日本の場合は、これがないと日本の保守派は納得しないからだ。
(1)だけだと、保守派の反発を招いて逆効果になる。

「当時の日本の政策の多くは非常に乱暴だった」というが、安倍晋三の政治手法も非常に乱暴である。
日本の軍国主義は、リーダーの無能・無責任と兵士の獣のような暴力主義に特徴がある。

「日本軍はアジア戦域において捕虜を飢えさせ、不当に扱っただけでなく、国内に連行して軍需工場で奴隷のように働かせた」とあるが、国内の同胞に対しても日本軍国主義は冷酷で残酷だった。
日中戦争や太平洋戦争で亡くなった軍人・軍属は、約230万人。
その「6割が餓死した」といわれる。

敵に殺される前に、日本兵は補給を無視した無能・無責任な幹部によって餓死に追い込まれていたのである。

「悪名高い関東軍の731部隊は、中国人の捕虜や民間人を対象に(化学兵器開発のために)いまわしい人体実験を行っている」と、ここではじめて731部隊の名前が出てくる。
しかし、あとが続かない。
深入りすれば、米軍が人体実験のデータ提供の見返りに、訴追免責したことを触れねばならないからだろう。

「朝鮮半島や中国での抗日勢力に対する軍事作戦は壮絶の一言だった。
「全てを殺して焼き払い、略奪する」という日本軍の戦略はいまも鮮烈に記憶されている」というくだりにきて、ちょっと待てよ、という内心の声が起きるのをどうしようもない。

「全てを殺して焼き払い、略奪する」というのは、すでに制空権も失い、無抵抗状態だった日本に加えた米国のジェノサイドにこそふさわしいのではないか。
東京大空襲をはじめ日本の各都市に加えた、市民を対象にした猛烈な空襲、そして広島・長崎の市街地に対する、人体実験のための原爆投下。
そしてデータの略奪。
これこそ「全てを殺して焼き払い、略奪する」行為だったのではないか。

日本に対する米軍の攻撃は、ヨーロッパ戦線においてドイツに加えた攻撃より遙かに凄まじいものだったのである。
このことはあまり知られていない。

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与謝野晶子与謝野晶子

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