時代が大きく変わりつつある。それも戦争に向けてだ。
ひとつは、米国のオフショアバランシング戦略による核戦略の転換である。

これは核の不拡散から拡散へと、180度の転換になる。もっともすぐに現実化するものではなく、次の米大統領に誰がなるかで、大きく変わってくる。
米国のオフショアバランシング戦略の骨子は、以下の3点である。
1 欧州、中東から兵力を縮小あるいは撤退し、東アジアに軍事力を残し、集中する
2 米軍の兵力を、陸軍から海空軍重視に転換する
3 米軍の負担を同盟国に分担させるのではなく、負担を負わせる
なぜ欧州、中東から兵力を縮小あるいは撤退するのに、東アジアに軍事力を残し、留まるのか。
ジョン・ミアシャイマーとスティーブン・ウォルトは、その理由を2点挙げていた。(「アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ ―― オフショアバランシングで米軍の撤退を」)
1 中国は近隣諸国よりもはるかにパワフルなので、対抗できる国がいない。米国が必要である。
2 地域諸国が地理的に点在しているために中国への対抗バランス構築が困難である。
(vol.726のメルマガ「オフショアバランシングの東北アジアのターゲット(その1)」(2016年7月4日号)
しかし、これはあくまでも表向きの理由であって、ほんとうの理由は、日本の政治が極端に劣化し、いわば実質的な植民地状態にあるので、欧州と違って、もっと収奪できるということなのだろう。
日本には、中国の脅威を煽れば、米国製兵器を他国より高額で購入させることができる。つまり、ここでも米国の凋落の理由が、米国を日本に留まらせるのである。
つまり、オフショアバランシング戦略は、米国の凋落という現実を色濃く反映した戦略である。
この戦略で注意すべきは、この戦略を実行する米軍産複合体(と日本軍需産業)の狙いである。
結局、米国戦争屋は、オフショアから日中戦争を仕掛け、適当なタイミングで仲介に入るバランサーの役を演じるだろう。東アジアには、ロシア、中国、日本、韓国、北朝鮮と揃っている。米国戦争屋としては、実に魅力的なエリアなのだ。
もし米大統領にヒラリーがなれば、状況は一挙に危機的になる。
まず、ヒラリーは、米国の凋落を理解していないので、覇権を巡って激しくプーチンとぶつかる筈だ。そのとき、必ず日本を前面に立てる戦略をとることになる。したがって、現在、安倍晋三がやっているロシアとの関係構築は水泡に帰す可能性が高い。
安倍晋三としては、プーチンを理解できるトランプが米大統領になってくれた方が、遙かにいいのだが、そのことへの理解がないようだ。
今日のメルマガでは、このオフショアバランシング戦略の、究極の具体化である日本の核武装について考えてみる。
ダグ・バンドウ(元米大統領特別補佐官で、現在はケイトー研究所シニアフェロー)が「日韓の核開発をアメリカは容認すべきか ―― 核の傘から「フレンドリーな拡散」へ」を書いている。たいへん興味深い論文である。
「韓国を例に考えると、この国は北朝鮮の40倍の経済規模をもち、2倍の人口を擁している。それでもソウルは、アメリカの軍事プレゼンスが永続的に維持されることを期待している。日本も同様だし、中東諸国もアメリカの永続的な軍事関与を当然視している部分がある。
このため、アメリカの軍事力は、自国に対する攻撃を抑止して直接的な国益を守ることよりも、同盟国を守るための戦力展開を前提に編成されている。これが膨大なコストを必要とするのは言うまでもない。
必ずしも必要でないコミットメントを削減すれば、米戦力をかなりダウンサイズできる。陸軍の規模を削減し、外国の前方展開基地を閉鎖し、その他の軍事サービスを削減できる。介入路線を控えれば、アメリカの軍事支出の少なくとも4分の1、つまり、現在の6000億ドル強の軍事予算の1500億ドルを節約できる。
一方、核の傘を提供し続ければ、紛争リスクに直面する。最大のリスクにさらされるのは、米軍の将兵たちだ。仮に、他国による核攻撃の危険にさらされている国を支援すれば、米本土も報復攻撃の対象にされ、軽くみても数千人が犠牲になる恐れがある。一方で、得るものはほとんどない。
冷戦が終結した以上、韓国がアメリカの安全保障にとって特に重要なわけではない。しかも、世界で13番目の経済規模をもつ韓国は自分で国を守る力をもっている。より多くの通常戦力を配備することもできるし、韓国の専門家たちは、その気になれば、2年以内に核兵器を開発できるとみている」(『Foreign Affairs Report』2016 NO.9)
オフショアバランシング戦略の特徴として、凋落の米国からくる必然的な帰結―コスト削減の問題がある。
ここでもそれは問題にされている。「アメリカの軍事力は、自国に対する攻撃を抑止して直接的な国益を守ることよりも、同盟国を守るための戦力展開を前提に編成されている。これが膨大なコストを必要とする」ことが問題視されている。
こういう視点は、これまで巨大な米経済力を背景に存在しなかったものだ。旧ソ連との冷戦を背景に、海外への軍事展開は、米国の国家戦略になっていた。外国に基地を置くことが、資本主義陣営の盟主に米国を押し上げ、米国の国益の源泉になっていた。
しかし、米国は凋落し、世界は多極化に向かっている。もし、「必要でないコミットメントを削減すれば、米戦力をかなりダウンサイズできる」として、「陸軍の規模を削減し、外国の前方展開基地を閉鎖し、その他の軍事サービスを削減できる。介入路線を控えれば、アメリカの軍事支出の少なくとも4分の1、つまり、現在の6000億ドル強の軍事予算の1500億ドルを節約できる」としている。
こういう論文が堂々と『Foreign Affairs Report』に載りだした。日本の外交はこの状況に対応できていない。日本の1%にとって米軍の駐留は前提であり、思考停止に陥っている。
米国のオフショアバランシング戦略の特徴として、剥き出しの国益がある。それでここでも「核の傘を提供し続ければ、紛争リスクに直面する。最大のリスクにさらされるのは、米軍の将兵たちだ」として、見返りが何もない、といった損得勘定をしている。
こういった理論は、これまでの米国にはなかったものだ。G1としての米国は、もはやどこにもない。
日米同盟などと有り難がっているのは安倍晋三だけで、米国は冷徹に国益しか考えていない。その延長上に日韓に核を持たせた方がいいという考え方が出てくる。
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