1 権力の準強姦

伊藤詩織の『Black Box』(文藝春秋)についての、今日は2回目である。

前回のメルマガでは、米国の大学でジャーナリズムと写真を学び、ジャーナリストの仕事を探していた伊藤詩織が、就職を餌に、酒の席に呼び出され、薬を酒に混入されて、意識を失い、ホテルに抱え込まれて強姦されるところまで書いた。

読んで見てわかったのだが、この本にはどうでもいいようなこと、割愛できるようなことなど何もない。
すべての言葉が、必死の思いで紡がれており、とても1回や2回のメルマガでは終われそうにない。

前回のメルマガで、この事件の背景には、次の5点の背景が存在している、とした。

(1)若者の就職難

(2)司法の私物化(森友・加計学園事件、山口敬之の「準強姦」もみ消し事件)

(3)縁故主義(ネポティズム)(安倍晋三 — 菅義偉 — 杉田和博(元警察庁警備局長) — 北村滋(元警察庁長官官房総括審議官) — 中村格(いたる)(事件当時は警視庁刑事部長) — 山口敬之)

(4)安倍政権の棄民策(福島・沖縄 ? 籠池夫妻・伊藤詩織)

(5)御用メディアの無視

今回、次の2点を加えておきたい。

(6)世界最悪の女性差別国家

(7)性犯罪教育の皆無

この7点が背景にある。
そういう意味では、きわめて状況的社会的な事件である。
また必然的な事件だった。

わたしは性犯罪とか女性差別の専門家ではない。
「準強姦」という言葉の概念も、意識のない人に対するレイプ犯罪だということを、この事件を通じて初めて知った。

レイプされた後の詩織の精神状態は、読むのも辛くなってくる。
混乱、自虐、後悔、苦悩。
その葛藤のひとつは次のようなものだ。

山口氏はTBSのワシントン支局長だ。
その上、長い間政治の世界で仕事をしてきたため、有力な政治家たちだけでなく、警察にも知り合いが多いと聞いていた。

それだけではない。
私が毎日通って働いていたロイター通信の主な業務は、マスコミ各社への情報配信だ。
もちろんTBSは大事なクライアントで、しかもロイターのオフィスは、赤坂のTBS本社のすぐそばにあった。

もし私が一人で警察に相談したり、彼を告発したりしたら、果たしてこの先、同じ業界で仕事を続けることができるのだろうか。
TBSが山口氏の盾となり、逆に名誉毀損で訴えてくるかもしれない。
そうなったら、一体どうやって身を守ったらいいのだろうか。

ひたすら怖かった。

それまでになんどかのぞき見た日本の報道現場は、完全な男社会だった。

私が甘いのかもしれない。
こんな風に踏まれても蹴られても、耐えるべきなのかもしれない。
そのくらいでなければ、この仕事は続けて行けないのかもしれない。
魔が差したように、そんな考えが頭をよぎった。

2 教育現場のBlack Box

「山口氏はTBSのワシントン支局長だ。
その上、長い間政治の世界で仕事をしてきたため、有力な政治家たちだけでなく、警察にも知り合いが多いと聞いていた」。
これがレイプ犯山口の巧妙で用意周到な伏線になっている。
このことを狩りをする前に獲物に吹き込んでいるのだ。
「カリニ警察ニ訴エタトコロデ無駄ダ。
オレノ背後ニハ安倍晋三ガイル」

「それまでになんどかのぞき見た日本の報道現場は、完全な男社会だった。
私が甘いのかもしれない。
こんな風に踏まれても蹴られても、耐えるべきなのかもしれない。
そのくらいでなければ、この仕事は続けて行けないのかもしれない」。
実際、パワハラ、セクハラに遭った多くの女性がこのように考え、泣き寝入りしている。
警察沙汰になるのは氷山の一角だ。

詩織は友達の女性に相談する。

何よりも、彼女は私が初めてお酒を飲んだ日にも一緒にいた幼馴染だ。
私の飲める酒量や酒席での様子もよく知っていた。
彼女は、私がたった数杯と二〜三号のお酒で意識を失うことはありえない、と強く言った。
また、私の性格からも、目上の人と仕事の話をする席で、私がそこまでお酒を飲むとは思えない、と。

彼女も私と同じ時期にニューヨークに住んでいたことがあった。
「デートレイプドラッグの可能性はあるかな」と言う私に、彼女は「あるかもしれない」と同意した。

そして、いつもそうしてくれるように、これからどうするべきか、親身に考えてくれた。
その後、警察に行った時も、深夜に一人暮らしの自宅へ帰るのが怖くなった私を駅まで迎えに来て、実家まで送ってくれた。

しかし、彼女もレイプ事件に遭遇したらどうすれば良いか、という知識を持ち合わせていなかった。
私たちは、誰からもそういう教育を受けてこなかった。
そしてそれ以上に、政治と深く繋がっている人物を告発した時に、警察や司法が本当に守ってくれるのかわからず、二人とも恐れていたのだと思う。

彼女は、デートレイプドラッグだったとしても、一回の仕様ではすぐに体内から出てしまうと言った。
私は「とにかく、早くその場から離れたくて飛び出してしまったけれど、ホテルから110番すべきだった」と後悔した。
今からでもすぐ警察に行くべきかどうか、二人で悩んだけれど、結論は出なかった。

伊藤詩織は、現実にあったことをそのまま正直に書いている。
詩織は、ここに登場してきた友達とか、妹、そしてあとで出てくる両親、警察に事件の内容を告白して相談している。
こんなことを、人は他人を貶めるためにのみできるものではない。
これは実際に起きたことである。

読めば、真実が語られていることがすぐにわかる。

ここに登場してくる友達が次の2点を断言しているが、この内容は非常に重要だ。

(1)詩織は酒が強く、「たった数杯と二〜三号のお酒で意識を失うことはありえない」こと。

(2)詩織の性格からして、「目上の人と仕事の話をする席で、私がそこまでお酒を飲むとは思えない」こと。

この2点は、本を読む前から、わたしには気になっていたことだった。

前号のメルマガでも書いたが、酒の強い人は、「たった数杯と二〜三号のお酒で意識を失うことはありえない」のだ。
わたしも若い頃は酒が強かったが、もうこのあたりが限度、という自制は常にできた。
一度も人前で酔いつぶれたことはない。
それが酒に強いということだ。
酒に強い同僚も皆そうだった。

また、就職を頼む年配の男性を前にして酔いつぶれるまで飲むことはあり得ない。
詩織がトイレに立ったときに、薬を混入されたのだとわたしもみている。
トイレから席に戻って、残りの酒を飲んだ直後から急に意識を失っている。

「彼女もレイプ事件に遭遇したらどうすれば良いか、という知識を持ち合わせていなかった。
私たちは、誰からもそういう教育を受けてこなかった」。
中学校から大学の図書館に伊藤詩織の『Black Box』を置くべきだ。
これは図書部長の判断で簡単にできる。
メルマガ読者の子弟に中高生がいたら、図書館の購入希望用紙に書かせてもよい。

中学校、高校では、レイプに遭ったときの対処の仕方を具体的に教えるべきである。
これはほとんどの学校で教えていない。
もっぱら養護教諭が駆け込み寺の役割を押しつけられ、相談のあった生徒のみに個人的に対応している。

養護教諭にもレベルの違いがあり、妥当な指導がなされているとは思えない。
校長やクラス担任に、そして保護者にもレイプ被害を隠す養護教諭がほとんどだ。

生徒がそのように頼むからだ。
まして警察沙汰にする指導は皆無である。
だから学校では性犯罪の問題が、万引きや喫煙、いじめや不登校の問題ほど広がらないのだ。

担任は、レイプに遭った生徒がクラスにいたことなどまったく知らないままに進級させていくのである。
学校自体が性犯罪の『Black Box』になっている。

誤解はないと思うが、わたしは特定の被害生徒の名前を公表して対処しろといっているのではない。
生徒の個人名は出さなくていいから、職員間で問題の周知徹底を図り、性犯罪から生徒を守る方策を検討する。
年に一度は専門家を呼んで職員の研修会を開き、かつ生徒への啓蒙と指導を図る。

文科省の怠慢であり、早速、具体的な指針を検討し、各教育現場に下ろすべきだろう。

「とにかく、早くその場から離れたくて飛び出してしまったけれど、ホテルから110番すべきだった」という知識など、学校で教えない限り獲得することはない。

「政治と深く繋がっている人物を告発した時に、警察や司法が本当に守ってくれるのか」という不信は、いまや国民的なものだ。
警察や司法が恥じるばかりでなく、性犯罪をこれまで放置してきた怠慢を国会が恥じるべき問題である。

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