1 真のジャーナリストとして楽しみな伊藤詩織の今後

伊藤詩織の『Black Box』(文藝春秋)についての、今日は5回目、最終回である。

前回でも書いたが、この著作は、安倍政権下の腐敗した司法私物化の状況、無法者が跋扈する状況を的確に抉っていた。

彼女は左翼ではない。
総じてイデオロギー色のない人である。
ところが、現代日本の、もっとも深刻な問題、彼女自身が被害者だった準強姦事件を切り口に鋭く迫っていく。
それが安定していて的確だった。

状況を的確に判断するのに、イデオロギーは必要不可欠なものではないのかもしれない。
大切なのはセンスなのだろう。

このことは政党に入っている人の言動を見ていて、わたしがいつも感じることだった。
職場に生起する状況というのは、どのひとつとして同じものはない。
しかも刻々と変わる。
それを的確に判断して状況の深部にあるものを洞察し、判断していく。
これにはセンスが必要なのだ。

これは、おそらく持って生まれたものである。
党にあっても間違う者は常に間違い続ける。
その大切なセンスが伊藤詩織には備わっている。

いま読み終わって、けっして心は穏やかではない。
しかし、ひとつの確かな希望を与えてくれる本である。
それは望月衣塑子と並んで、わたしたちは伊藤詩織という、優れたジャーナリストをもったという、ある種の安堵感である。

犬HKを筆頭にダメな日本の東京の大手(「記者クラブ」)寿司友メディアであるが、しかし、若い優れた真のジャーナリストが確実に育ってきている。

これまでのまとめ

(伊藤詩織は、米国の大学でジャーナリズムと写真を学び、ジャーナリストの仕事を探していた。
帰国後に就職を餌に、官邸お抱えレイピスト山口敬之に酒の席に呼び出され、薬を酒に混入(詩織とわたしの見方)されて、意識を失い、強姦される。
やっとの思いで警察に相談し、妹や両親にも打ち明ける。

その後、詩織と山口との緊迫した電話やメールでのやりとりが続く。
また、詩織は弁護士、警察との対応が続く。
山口が、詩織に法的な対応をとられることを警戒していることがありありとわかる。
しかし、何回かの詩織とのメールやりとりのなかで、ついに山口は性交渉があったとの尻尾をだしてしまう。

そんなとき、捜査員のAから、山口を帰国した空港で逮捕するとの連絡を受ける。
詩織は喜ぶが、4日後には、それが警視庁トップ(のちに中村格(いたる)と判明)の指示で不可能になったことを知らされる。

捜査は警視庁捜査一課が担当することになり、警察が不起訴に向かって政治的に動き出す。
山口の弁護士が示談交渉をしたいといっているので、示談の弁護士を紹介すると捜査官がいう。

数日後に、警察車両で弁護士事務所まで送られた。
衝撃の展開が続く。

その後、伊藤詩織には、自分で選んだふたりの優れた女性弁護士がつく。

しかし、7月22日に不起訴が確定し、伊藤詩織は弁護士からその旨、伝えられた)

その後、伊藤詩織には『週刊新潮』から取材の申込みがある。
この仕事で画期的だったのは、編集部が、中村格から自分が捜査中止を命令したと聞きだしたことだ。
ここではじめて安倍晋三の近くから、捜査中止を指示した具体的な名前が出てきたことになる。

2 接点が浮かび上がった安倍の側近

『週刊新潮』編集部は中村氏本人に、「トップの意を受け、あるいは忖度して捜査を中止したのか」と問うと、
「ありえない。(山口氏の立場に)関係なく、事件の中身として、(逮捕は必要ないと)私が決裁した。
(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。
自分として判断した覚えがあります。
事件が最後にどう評価を受けているかを見てもらえば……」
と答えた。(「週刊新潮」2017年5月18日号)

(中略)

当時刑事部長だった中村格氏が自分の判断で逮捕を差し止めたと認めたこと、山口氏が以前から「北村氏」(北村滋内閣情報官 注 : 兵頭)に私のことを相談していたこと、この2つの事実がわかったのは、本当に大きな進展だった。

『週刊新潮』のインタビューに対して、中村が逮捕は必要ないと自分が決裁したと語ったのは、もちろん口を滑らしたのではない。
官邸の指示を隠して自分が泥を被ることで出世の糸口を掴んだものである。
実際、かれはその後に出世している。

それでも、当時刑事部長だった中村格、それに北村滋内閣情報官という、安倍晋三側近と、官邸お抱えレイピスト山口敬之とに接点があることが明確になったのは大きい。

たんなる揣摩憶測の類いではないことがわかった。

ここで、山口敬之も認める事実を整理しておこう。
(番号は兵頭の打ったもの)

あの日の出来事で、山口氏も事実として認め、また捜査や証言で明らかになっている客観的事実は、次のようなことだ。

(1)TBSワシントン支局長の山口氏とフリーランスのジャーナリストである私は、私がTBSワシントン支局で働くために必要なビザについて話すために会った。

(2)そこに恋愛感情はなかった。

(3)私が「泥酔した」状態だと、山口氏は認識していた。

(4)山口氏は、自身の滞在しているホテルの部屋に私を連れて行った。

(5)性行為があった。

(6)私の下着のDNA検査を行ったところ、そこについたY染色体が山口氏のものと過不足なく一致するという結果が出た。

(7)ホテルの防犯カメラの映像、タクシー運転手の証言などの証拠を集め、警察は逮捕状を請求し、裁判所はその発行を認めた。

(8)逮捕の当日、捜査員が現場の空港で山口氏の帰国を待ち受けるさなか、中村格警視庁刑事部長の判断によって、逮捕状の執行が突然止められた。

以上の8点であるが、「レイプ被害で手記 伊藤詩織氏「ブラックボックスに光を」 注目の人 直撃インタビュー」(日刊ゲンダイ)では、次の項目が加えられている。

(9)山口氏に会ったのは3回目で、2人きりで会ったのは初めてだった」(番号は兵頭の打ったもの。なお、本とインタビューとでは順序が変わっており、文章も若干異なっている)

レイプでなかったとしても、彼女が受けたと同レベルの肉体的さらには精神的苦痛を受けて、彼女のように忍耐強く闘える人が、どのくらいいるだろうか、と考える。
それはとても少ないのではないか。

彼女の最初の記者会見、例の司法記者クラブでの記者会見のあと、この本の読者は、彼女が帰宅途中に倒れて病院に行ったことを知る。

この記者会見ひとつをとっても、彼女を心配する家族や友人などの反対があり、どれほどの葛藤があったことか。

会見では自覚していた以上に気が張っていたのか、終わったらどっと疲れが出た。

会見直後にオファーのあったいくつかのインタビューに対応した帰り道で、私は倒れた。
幸い友人がつきそっていてくれ、すぐに病院に連れて行ってもらえた。

それから数日間、体が動かなかった。
咀嚼する力もなく、お腹も空かない。

固形物は1週間以上、喉を通らなかった。
息が深くできず、体は死人のように冷たくなっていた。

すべてをシャットダウンして、このまま終わりにしたいと願った。

会見から10日経ち、やっと少しずつ、ものを咀嚼して食べられるようになった。
体も動き出した。

あの司法記者クラブ会見のあとに、このような苦しみが彼女を襲っていたのだ。
要は、10日間寝込んだということである。
これは語られない限り、想像もつかないことだ。
この精神力の強さには敬服するばかりである。

人間の強さには様々な形がある。
キッとにらみつけて対峙する強さもあれば、その場は穏当にやりすごして、何かの機会にやりかえす強さもある。
相手にへりくだって逃げ回り、しかし、けっして忘れていずに、機会を捉えてやり返す強さだってある。
柳に雪折れなしというが、彼女の強さは、しなやかな折れない強さだ。

ひとりの人間が、意図しなかったのに、状況の象徴的な位置を占めることがある。

伊藤詩織の場合、レイプされた男がたまたま安倍晋三のオトモダチであったことから、「記者クラブ」メディアは逃げ回り、外国人特派員協会も最初は不可解な態度をとった。しかもすでに執行されていた逮捕が、直前に警視庁のトップによって政治的に止められることになった。検察審査会まで不起訴相当の議決を出した。誰が見ても司法の私物化がここに露出しているのだ。

わたしがこの事件に注目するのは、国家・国政が私物化された状況の象徴的事件とみるからだ。今後は民事に舞台を移すが、引き続き注視し、伊藤詩織を応援し続けるつもりである。

 

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