1 山口敬之のメール

伊藤詩織の『Black Box』(文藝春秋)についての、今日は3回目である。

伊藤詩織は、米国の大学でジャーナリズムと写真を学び、ジャーナリストの仕事を探していた。
帰国後に就職を餌に、官邸お抱えレイピスト山口敬之に酒の席に呼び出され、薬を酒に混入されて(と詩織もわたしもみている)、意識を失い、強姦される。
やっとの思いで警察に相談し、妹や両親にも打ち明けるところまで書いた。

その後、詩織と山口との緊迫した電話やメールでのやりとりが続く。
また、詩織は弁護士、警察との対応が続く。
そこは一気に読ませるが、山口が、詩織に法的な対応をとられることを警戒していることがありありとわかる。
しかし、何回かの詩織とのメールのやりとりのなかで、ついに山口は尻尾をだしてしまう。

あるとき、山口はこのようなメールを詩織に送ってしまう。

「レイプって何ですか?
全く納得できませんね。

法律的に争うなら、そうしましょう。

私は全く構いません。

次の面会には弁護士を連れて行きます。

あなたが準強姦の主張しても
あなたが勝つ事はあり得ません。

(中略)

弁護士(詩織の弁護士 注 : 兵頭)は、こちらから何も言っていないのに、山口氏が「準強姦」という専門的な言葉を使った点に注目した。
前述のように、薬や酒などなんらかの原因で意識がなかった場合は、この罪状が適用される。

誰もが常識として知っている言葉ではなく、記者とはいえ、このケースがそれにあたると山口氏が認識している事実は注目に値した。

「準強姦」とは詩織がいっていないのに、みずから山口はこのキーワードを出してきた。それも妙であるが、「あなたが勝つ事はあり得ません」も不可解な言葉である。よほど自信があったとみえる。それは安倍晋三や政権上層部との付き合いの深さからきたものだろう。

また、別のメールで、「妊娠の可能性がないと以前断言していましたが、なぜですか」という詩織のメールに対して、山口がこのように返信したのである。

「私はそういう病気なんです」
「何の病気ですか? 私の健康に関わることなので詳しく教えてください」という詩織のメールに対して、山口は「精子の活動が著しく低調だという病気です」と答えてしまう。

語るに落ちるとはこういうことだ。

つまり山口は性交渉があったことを認めたことになる。

しかも「医療的な面で緊急を要する対応があるなら、いくらでもサポートしますから具体的に言ってください。
それから、会って話をしたいという事ならば、その為に日本に一時帰国する事も提案しましたが、その後あなたからは具体的な返答はいただいていません」とまでいっている。

性交渉がなければ、それも強姦でなければ、「いくらでもサポートします」「一時帰国する」などと、3回しか会っていない女性にいうことはあり得ない。

これはもうはっきりしている。
性交渉があったことを山口は認めているのだ。

伊藤詩織は書いていた。

2 どんでん返し

A氏(この事件担当の高輪署の捜査員 注 : 兵頭)は精力的に捜査を進めてくれた。

最後に行った鮨屋を出てから、私たちをホテルまで乗せたタクシー運転手の証言が取れた、と聞いたのはこの頃だった。
正確には5月13日のことだ。

この時に聞いたのは、「近くの駅で降ろして下さい」と何度も言っていたこと、タクシーの中で最初は仕事についての会話があったが、途中から私が静かになり、降りる時には自力では降りられない状態だったこと、降りた後に見たら、私のものとみられる吐しゃ物があったこと、だった。

記憶のない時間帯の自分の行動について語られるのを聞くのは、本当に気が重いものだが、私が何度も「駅で降ろして下さい」と言っていたと知り、ほっとした。
やはり、最後まで自分は家に帰ろうとしていたのだ。

ホテルのハウスキーパーの記録から、シェラトン都ホテルの部屋に吐しゃ物があったという記載はみつからなかったこともわかった。
山口氏は部屋の二カ所とトイレに「ゲロ」を吐かれたとメールで説明していたが、清掃員は、そのような状態に対する特別な清掃をしていないと日誌に記している。

また、これは当時、調書に取られなかったものだが、そのフロアを担当したハウスキーパーは、「ベッドは片方しか使われていなかった。もう一つのベッドには血がついていた」と証言していることも聞いた。

その後、詩織はドイツで仕事をする機会を得る。
日本にいて、山口に似た人間を見ただけでパニック症状を起こしていたので、日本人の比較的に少ないベルリンは精神的によかったのである。

そこへ日本のA(高輪署の捜査員)から電話がかかってくる。

山口氏の帰国に合わせ、成田空港で逮捕する、という連絡が入ったのは、6月4日、ドイツに滞在中のことだった。
「逮捕する」という電話の言葉は、おかしな夢の中で聞いているような気がして、まったく現実味を感じることができなかった。
8日の月曜日に(山口が 注 : 兵頭)アメリカから帰国します。
入国してきたところを空港で逮捕する事になりました
A氏は、落ち着きを見せながらも、やや興奮気味な声で話した。
逮捕後の取り調べに備えて、私も至急帰国するように、という連絡だった。

(中略)

この電話から4日後、逮捕予定の当日に、A氏から連絡が来た。
もちろん逮捕の連絡だろうと思い、電話に出ると、A氏はとても暗い声で私の名前を呼んだ。

伊藤さん、実は、逮捕できませんでした。
逮捕の準備はできておりました。
私も行く気でした。
しかし、その寸前で待ったがかかりました。
私の力不足で、本当にごめんなさい。
また私はこの担当から外されることになりました。
後任が決まるまでは私の上司の〇〇に連絡してください」
驚きと落胆と、そしてどこかに「やはり」という気持ちがあった。
質問が次から次へと沸き上がった。

なぜ今さら? 何かがおかしい。

「検察が逮捕状の請求を認め、裁判所が許可したんですよね? 一度決めた事を何故そんな簡単に覆せるのですか?」
すると、驚くべき答えが返ってきた。

ストップを掛けたのは警視庁のトップです
そんなはずが無い。
なぜ、事件の司令塔である検察の決めた動きを、捜査機関の警察が止めることができるのだろうか?
「そんなことってあるんですか? 警察が止めるなんて?」
するとA氏は、
「稀にあるケースですね。本当に稀です」

(中略)

「全然納得がいきません」
と私が繰り返すと、A氏は「私もです」と言った。
それでもA氏は、自分の目で山口氏を確認しようと、目の前を通過するところを見届けたという。

何をしても無駄なのだという無力感と、もう当局で信頼できる人はいないだろうという孤独感と恐怖。
自分の小ささが悔しかった。
今までの思い、疲れが吹き出るかのように涙が次から次へと流れ落ちた。

これが日本である。

日本で警察や検察が正義の味方と信じる人がいたら、その人は政治も状況も、いや文学も語ってはならない。

ずいぶん前から三権分立は幻想だと書いてきた。
日本では司法も行政の支配下にある。
安倍晋三のオトモダチであれば準強姦も無罪なのだ。

もちろん末端の捜査員は真面目に仕事をしており、正義感もある。
だからA捜査員は、空港で目の前を通り過ぎる山口を確認している。
おそらく怒りと無念の混淆した思いでにらみつけたのであろう。

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