(風化しつつある阪神・淡路大震災に抗して、『みず』と題して、個人的な体験を発信します)

『みず』

 

4 官僚の振る舞い

9時過ぎに、誰も出ないかもしれなかったが、気になって近くの公衆電話から職場に電話をかけた。当時、わたしは明石の高校に勤務していた。事務室が出て、こういった。

「先生方は何人か出て来られています」

この情報は意外だった。というか異様な気がした。こんな異常事態に学校に出てくるというのはどういうことだろうか。それとも被害はこのあたりだけなのか。

「生徒はどうなんですか」

「生徒も少し出てきています。そして教室に入っています」

これはさらに意外な情報だった。一部とはいえ、生徒が学校に出てきているわけだ。

これは後でわかったことであるが、わたしの勤務先は、神戸市より西寄り(岡山県寄り)の明石にあり、この地理上の違いが決定的な被害と状況認識の違いを生んでいたのである。神戸が青ざめた惨劇は東寄り(大坂寄り)で起きていたのだ。

かといってわたしの勤務先で何も異常事態は起きていなかったかというと、そうではなかった。

校舎は至る所にバリバリと亀裂が走り、そういった建物に生徒を一時的でも入れたということで、校長は強い批判にさらされることになる。

いずれにしても、事務室には、できるだけ出てきてください、といわれているのと同じだった。

『うちで車の運転ができるのはおれだけだ。車にはインフルエンザの娘がいる』

余震が続くなかで、わたしは、先ほどから暖房をつけたり、消したりといった作業を繰り返していた。バッテリーをもたせないと、今夜の寒さがしのげないからだ。

『エンジンをかけたまま車に家族を残すのは、何か起きたとき危険だ。一度思い切り暖房をきかせたあと、エンジンを切って、近くの同僚に乗せてもらって職場に行き、年休をとって早々に戻ってくることにしよう』

幸い気温も少しずつ上がってきている。娘も安静を保っており、わたしの立場を気遣って、お父さんは学校に行って、といってくれた。

車を頼んだ同僚のマンションもぐちゃぐちゃになっていて、ちょっとだけ学校に顔を出して、すぐに引き返すということだった。彼の場合、両親に電話が通じず、ほんとうは学校どころではないという感じである。

学校に着くと、廊下の壁、職員室の壁、階段の壁、教室の床、と校舎のいたるところにバリバリと亀裂が走っている。職員室の壁は一部が剥離して床に落ちていた。

「体育館はもっとひどい。怖くてなかに入っておれへんわ」

と体育の教師がいった。

「図書室もそうですよ。わたし、中におれなくてこっちに逃げてきたんです」

と年配の女性の司書教諭。

この学校では図書室は2階にあり、1階は食堂になっている。

「それじゃ、これから食堂に生徒を入れるわけにはいかんな」

と私がいった。

「食堂の柱に大きなひび割れが入っていて、とても食事どころじゃないわよ。上の階にいても怖いんだから」

と司書教諭。

「出てきた生徒を教室に入れとんやけど、あれでいいのかな」と年配の教師が心配げにいう。「余震も続いているし。生徒は教室からすぐ出したほうがいいと思う。それに生徒は家族のことを心配しているから、すぐ帰すべきやで」

そのうち、管理職の対応について、様々な批判が出てきた。

校長は、同じ兵庫県でも岡山県寄りからきていた。自宅の被害が神戸に比べれば軽微だったことから、今でも地震の実態を正確には掌握していないという。

登校してこない職員や生徒に対して、なんで出てこないのか、と怒っているということだった。教育者としてより、管理意識が先にくるのだ。

亀裂の入った校舎を点検もせずに、それが、生徒を入れさせる行動に繋がったというのだ。

それで校長と話し合いをもち、生徒は帰宅させることになった。

校長が認識を改めたのは、少しずつ情報が入ってきて、近隣の学校が休校措置をとっていることがわかったこともある。万が一の管理者としての責任問題を恐れ始めたのだ。ここでも教育者としてではなく、官僚として発想していた。

学校にやってきた職員も、家族や親戚が心配で、年休をとったりして帰り始めた。わたしがきたときは、入れ違いですでに帰宅した教師もいるということだった。

わたしはインフルエンザに罹っている長女の顔を思い浮かべた。

『余震がこれだれ激しい現状で、マンションに入るのは危険だ。今晩は車のなかであかそう。

車? 車があってほんとうに助かった。これで寒さは防げる。情報はラジオから入る。安全なところに移動も可能だ。

……熱が出ないだろうか。……娘が薬を飲むのに水がいる。そうだ、水が必要だ。しかし水道はとまっている。食事はどうしよう。トイレは? ……動かんね、何しちょっと』

わたしは郷里の宮崎弁で自分に言い聞かせた。
〈続く〉
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