『英国エコノミスト』(2017年3月11日号)に、「1つの中国にはいろんな意味が 馬鹿げた1つの中国政策を維持すべき理由」が載っている。

「1つの中国」はいつか実現するのか。それとも米国の本音は「2つの中国」であって、台湾は永遠に現在のままなのか。今日のメルマガではこの問題を考えてみよう。

この礼儀正しい嘘がアジアの平和維持に役立っている。

米国の『1つの中国』政策ほど巧みに表現された外交上の詭弁はない。米国高官は繰り返し、<米国はこの政策を堅持する>と発言してきたが、これほど、米中という核武装大国間の平和維持に役立っているものは他にない。

仮に米国がこの政策を放棄し、2つの中国(台湾独立)を容認すれば、中国は激怒し、中国本土では反米暴動が勃発するだろう。それどころか、北京政府は、台湾や東アジア地域に駐留する米軍に対して武力攻撃を加えかねない。そうなれば何百万もの人命が脅かされることになるだろう。

だから、当時まだ次期大統領だったドナルド・トランプが、次のように言った時は太平洋両岸の緊張が高まったのは不思議ではなかった――「なぜ『1つの中国』政策に縛られなければならないのか分からないね。まだ、通商とか様々なことを中国と交渉して合意してもいないのに」。

先月、彼の気が変わって、習近平中国国家主席に対して、<自分はこの政策を堅持する>と表明した。とは言うものの、『1つの中国』政策は、今も壊れやすい状況にある。これに疑問を投げかけるどころか、トランプ氏は、現状に対する米国の支持をかつてないほど明確に打ち出さなければならない。
この記事の英字原文

「1つの中国」論は、アジアの平和を維持している礼儀正しい嘘、米国の外交上の詭弁だという。

あまりにもエスプリのきいた表現で、見事である。

しかし、「1つの中国」は、嘘であり詭弁ではあっても、米中という核武装大国間の平和維持に役立ってきた。

米国が「1つの中国」を認める限り、中国は米国との通商関係を円滑にし、米国債を購入する。

逆に米国が「1つの中国」を放棄し、台湾独立を許容すれば、中国では組織された反米暴動が勃発する。中国内の米企業は打ち壊しや焼き打ちに遭うだろう。

また、中国内の反米暴動がエスカレートすると、アジア各国の駐留米軍への武力攻撃になるかもしれない。さらに中国軍による台湾への武力侵攻を招きかねない。もし米軍が応戦すれば、直ちに日本の問題になってくる。

『エコノミスト』のトランプ評価は、大統領選挙中から一貫して低い。それでトランプが、「なぜ『1つの中国』政策に縛られなければならないのか分からないね。まだ、通商とか様々なことを中国と交渉して合意してもいないのに」と語ったのを、誤解している。トランプのこの発言は、実は深謀遠慮なのである。

トランプの真意は後半の「まだ、通商とか様々なことを中国と交渉して合意してもいないのに」にあった。トランプはカードとして「1つの中国」を使っている。対中貿易の不均衡是正、さらなる米国債の購入などで、米国経済の建て直しに中国の協力が得られるなら、これまでどおり「1つの中国」でゆくというサインだったのである。

「先月、彼の気が変わって」ではなく、水面下での中国による協力の内諾があって、トランプは、「1つの中国」政策堅持を表明したのだと思われる。

「1つの中国」政策を不安定な状態におくのは、米国の戦略である。なぜなら常にカードとして「1つの中国」を使えるからだ。

中国は「1つの中国」に固執する限り、米国の機嫌を損ねることはできない。それでアジアの平和が維持される。これは実にうまい戦略である。

さらに『英国エコノミスト』を読んでみよう。

米中2強大国の間には、異例の外交関係が出来上がった。両国はイデオロギー上は対立していたものの、最初はソ連に対する共通の敵愾心から、後には両国間の通商を通じての共通の富の追求から、手を繋ぐことになった。

しかし、台湾は今でも火種のままだ。共産中国は台湾を、<必要とあれば武力を用いてでも、支配したい>というその夢を捨てたわけではない。米国は台湾に武器を輸出し続けてきた。その「台湾関係法」によって、台湾に対する武力攻撃は米国の「重大な関心事」と見なすとされている――すなわち、米国は台湾の救援に駆けつけると示唆されている。

この関係法に対して、中国はしばしば怒りを表明してきた。近年、中国が急速に軍備を拡張してきたのは特に、米国に台湾防衛を諦めさせようと狙ったものだ。もし中国が米国を排除できれば、中国はほぼ確実に台湾を打ちのめすことができるだろう。

1つの中国と1つの台湾

この一触即発の島が今、台湾人の民主主義の火の粉に晒されている。1990年代に、台湾は独裁政治体制から脱却し始めた。台湾人は現実的な人々だ。昨年、彼らは独立志向の強い総統を選出したが、この新総統は共産中国の怒りを買わないように心掛けている。台湾は既に十分に自立していると考えている者がほとんどだ。正式に独立を宣言して中国を怒らせたいと思っている者はほとんどいない。

他方、台湾人は『1つの中国』という考えに疑問を持ち始めている。彼らから見れば、中国本土は別の国家だし、この隣に位置する巨大な独裁国家に飲み込まれるなどということは望みもしない。台湾は1度として共産中国には支配されたことが無い。1895年以来、中国本土の政権に支配された期間は5年にも満たない。

とは言え、『1つの中国』という虚構が続くことに満足している者がほとんどだ。しかし、本当に続くだろうか? 長いこと愛国心を煽ってきた結果、中国共産党は今更この領有権の主張を捨て去ることは絶対にできない。いつの日か、党の人気を立て直すためにも、台湾に侵攻したいという誘惑にかられないとは言い切れない。

こういう中国の思いを阻止する米国の能力と意欲は、台湾の生死に関わるだけでなく、より広く世界における米国の役割を計る尺度としても重要だ。米国が台湾に売却する武器では、中国軍の猛攻に長期間抵抗することはできないだろう。

だが武器の譲渡は、米国が台湾に関心を寄せていることの証しであり、同時に中国に対する警告でもある。米国は台湾を米中交渉の切り札に利用するのではなく、台湾への軍事的な支援を維持すべきだ。もし、この紛らわしい1つの中国という『念仏』を唱えれば平和が維持されるのなら、そうする価値はある、というものだ。

米中は、旧ソ連に対する共通の敵愾心で、その後は貿易による富の追求で、連帯することになった。

台湾は米国にとって必須のカードだ。文字通り、米国のアジア戦略、分割して統治する戦略の見本である。

「米国は台湾を米中交渉の切り札に利用するのではなく、台湾への軍事的な支援を維持すべきだ。もし、この紛らわしい1つの中国という『念仏』を唱えれば平和が維持されるのなら、そうする価値はある、というものだ」。これが記事の結論であるが、少し考え方が窮屈すぎる。

カードとしての「1つの中国」を、米国はもっと巧みに使っている。

台湾への武器輸出は、分割統治戦略の好例である。「1つの中国」を認めるのなら、台湾に武器を輸出するのは論理矛盾である。台湾が軍事的に肥大するほど、「1つの中国」は遠ざかる。したがって米国の軍産は台湾防衛を諦めていないのである。

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