『美味しんぼ』問題を考えていくと、いかに現在の日本政治が劣化し、異様な国になっているかがわかる。

いかに人気があるとはいえ、エンターテイメントのひとつの漫画が、福島の「鼻血」に触れただけで、複数の大臣が恫喝のコメントを出す。県知事が風評被害に触れて威嚇し、大学の学長が圧力をかける。

そしてマスメディアが、「鼻血」の影響で福島に旅行のキャンセルが出ていないかと、はしゃぎ回る。

ことをなるべく大きく膨らまし、 雁屋哲の表現弾圧へと状況を向かわせる。その先頭をマスメディアが走っている。福島県知事佐藤雄平の「見解」を「抗議」として発表したのは、その一例である。

『美味しんぼ』が注目され、弾圧の対象になったのは、作品の影響力が自民党の支持基盤と重なっていたからである。

今日は政治の『美味しんぼ』問題と、メディア(出版社・編集者)の『美味しんぼ』問題とにわけて、考えてみよう。

まず、政治であるが、ツイッターのどのように辛辣な政府批判も、為政者にとってはサンプルデータにすぎない。しかし雁屋哲の『美味しんぼ』は、政府にとっては玉石混淆のビッグデータであったわけだ。

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端的にいうと、ビッグデータとしての『美味しんぼ』は、読者に多くのB層を抱え込んでいる。そこは自民党の票田と重なりあうのである。その事実が政治家の危機感に触れた。

『美味しんぼ』の発行部数は、累計で1億部を超えている。『クレヨンしんちゃん』の発行部数が累計で4300万部というのだから、その倍以上の、とにかくけた外れの人気漫画である。

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その圧倒的な発行部数と影響力が、ビッグデータとして権力の警戒心を惹起したのである。そして政府は、憲法が保障している表現の自由を軽々と越えてしまった。

このあたりの腰の軽さは、何しろ総理が立憲主義を知らない国なのだから、まるで憲法などなきがごとしである。

エコノミスト誌データ・エディターのケネス・クキエルと、オックスフォード・インターネット研究所教授のビクター・メイヤー=ションバーガーは、共同執筆の「ビッグデータの台頭」のなかで、次のように書いている。

「政府がデータのパワーを過度に信頼するようになることも、もう一つの懸念材料だ。

人類学者のジェームズ・スコットは、 1999年の著作Seeing Like a State で、政府が数量化とデータ収集を重視するあまり、人々の生活を悲惨にすることも多いことを例証している。

例えば、コミュニティを再編(統廃合)しようとする場合、政府は現地で暮らす人々の生活を理解しようともせず、まず地図を取り出して、計画を立てようとする。

農業を集産化しようと、生産の実態に目を向けることなく、むしろ、収穫に関する一連のデータに政府が頼ろうとするのも事実だろう。

人々は長い時間をかけて有機的に交流し、必要性に導かれて行動しているというのに、政府は不完全なデータを、たんに社会の動きを数量化したいという願いゆえに、受け入れてしまっている。

この間違ったデータ信仰が問題を引き起こすこともある。データの間違いゆえに組織が判断を間違え、本来の数字が意味する以上の価値をデータに見出してしまうこともある」(『Foreign Affairs Anthology 』vol.39)

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『美味しんぼ』の圧倒的な発行部数と人気に、「政府がデータのパワーを過度に信頼」し、反射神経的に反応してしまったということは否めない。

その背景には「間違ったデータ信仰」があり、読者の多寡によって政治的影響力を判断する間違いを、政府は起こしてしまったのである。

『美味しんぼ』はグルメ漫画であり、それを手にする人は、政治的な、そして思想的な関心をもって手に取るわけではない。政府は明らかに「本来の数字が意味する以上の価値をデータに見いだしてしま」ったのである。

話題になり、騒ぎになると、雑誌は売れる。これは市場経済の鉄則である。政府は、結果的に宣伝役を買って出ており、『美味しんぼ』は発行部数を、少なくともこの2、3号は増やすであろう。

ケネス・クキエルとビクター・メイヤー=ションバーガーは、先の論文の結論を次のようにまとめている。

「ビックデータの世界にあっても、われわれが育むべきは、想像力、直感、知的向上心などの人間の特性にほかならない。結局は社会を進歩させる原動力は人間の英知なのだ。

ビッグデータは資源であり、ツールでもある。それは情報だが、それで因果関係を説明することはできない。理解する糸口は提供できるかもしれないが、情報がどのように位置づけられるかによっては、誤解を生み出すこともある。

ビッグデータがいかに大きなパワーをもっているように見えるとしても、その魅力的な輝きに惑わされて、それが不完全なものであることを忘れてはいけない。

むしろ、われわれは、ビッグデータのパワーだけでなく、それに限界が存在することを認識した上で、このテクノロジーを用いるべきだろう」

いかにグーグルなどがビッグデータを提供してくれても、「われわれが育むべきは、想像力、直感、知的向上心などの人間の特性にほかならない。結局は社会を進歩させる原動力は人間の英知なのだ」。この結論は正しい。

巨大な読者をもつエンターテイメントの作品が、福島を書いた。放射能と鼻血との因果関係が指摘されていても、それに政府が怯える姿勢がまずおかしい。

『美味しんぼ』に指摘される前に、国と県が、その因果関係を調査し、県民の命と健康のために手を尽くすべきだったのである。

自分たちがやるべきことをやっていない後ろめたさが、県民の味方面して、風評被害を声高に喋らせるのである。

さて、『美味しんぼ』問題に関わった人間で、政治家たちに続いてそのダメさが際だったのは、出版社(編集者)である。権力の弾圧に対して作家を守らない。これは70年代の左翼の退潮期から顕著になった。

それは出したい本から、売れる本へとシフトを変更し、それが売れる本でも反体制であれば作家に書き直しを命じる。

さらに反体制であれば書かせない、さらには左翼の権威を批判した作家の本は出させない、とエスカレートしていった。

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